あ、俺疑われている。
「何のためにここにいるのか」
「何日ここにいるのか」
「中国に来たことはあるか」
「上海は初めてか」
「中国語は喋れるか」
「上海に友人はいるか」
「上海市内ではどこに行くか」
「仕事はしているのか」
「どこの会社だ、教えろ」
入国審査官に怪訝な顔をされながら怒涛の質問をぶつけられた俺は、いつものように小便を漏らしながら質問に答えていく。
「あらぬ疑いをかけられたらどうしよう」
「入国前に拘禁は嫌だなぁ」
「スマホにいかがわしいページが入ってたらどうしよう」
そんなことを考えながら、平静を装い淡々と答えるのが紳士たる私の使命。今日は震え声のジェームズボンドを演じてみせよう。君の瞳にチェックメイト、俺の心臓はノックアウトだ。
私がただのアホだと気がついた入国審査官は、そっけなくパスポートを渡してきた。入国完了、最初の任務は完了。さて、ここから先が問題だ。夕食に何を食べるか、宿泊地までどのように行けばいいか。なにせ、全てが未知数なのである。東京の2.89倍もの面積を誇るクソデカシティはGoogleの検索を許さない。高徳地図(AMAP)と百度地図(Baidu Maps)、微信(WeChat)、支付宝(Alipay)が俺の命運を握っている。握るのは寿司だけでいい。命運を握らせるな。

さて、思いつきで乗車したのは空港から直結のリニアモーターカー「マグレフ(Shanghai maglev train)」である。空港〜市内を結ぶ約30kmの行程を、最大時速300kmで通過するイカれた公共交通機関だ。到着まで約8分。短い距離を実験的に走らせてみようという政府高官の鼻息を感じることができる。
乗車中の人たちにも珍しいらしく、時速300kmを超えたあたりでパシャパシャとカメラを構える人が続出した。
前評判とは裏腹に比較的安い物価
上海は物価がとても高いイメージがあったのだが、実際はそれほど高くない印象だ。
- 東京 >>> 大阪 = 札幌 >> 上海 = バンコク >>> ダナン
上海は広すぎるので、どこに行ったらいいのかがよくわからない。中心に行った時、顔面偏差値の高い人がめちゃくちゃ歩いてて、韓国のソウルみたいな印象を受けた。また、イケてるスポットに目をつけて少し歩いてみたんだけどどこも混雑してるし並んでたりするしで全然お店に入れなかった。こういうところは東京っぽい感じがして結構嫌だ。都市には穴場のスポットなんてない。簡単に発見されすぐに殺到するからだ。
しかし、上記は上海の中心部に限った話であることも分かった。上海各地に宇宙船のようにでかいショッピングモールが点在しており、あるところは新宿のアルタ前のように混雑し、またあるところは寂れた地方都市のように誰もいないのだった。上海はとても広い。LEDが宝石のように輝くショッピングモールが閑散としているのはとても興味深く思える。
到着から3週間、超絶快適生活
到着から3週間。上海はある意味コミュニケーションを取らずとも生きていける街だと気が付いた。DiDiにより目的地が設定されたタクシー運転手はもはや行き先を聞く必要がない。WeChatやAlipayは注文、支払いの手間すら消している。痛みをテクノロジーが肩代わりし、同時に外の世界の輪郭をおぼろげにするのだった。
しかし、この滞在の中で不快な経験をしたことは何ひとつない。

まず飯が安くて美味い。成都での滞在で中国の飯は臭くて不味いという認識になっていたが、良い意味で裏切られた。上海での食事は、主観的には70-95点程度であるという印象だ。味の評価はマクドナルドを基準としており、マクドナルドで食べられるハンバーガーの味は70-75点程度。街の飯が不味ければ、マクドナルドに行く頻度が増えるし、美味ければほとんど行く必要がない。今回の滞在では1回だけ。あえてマクドナルドに行く理由がなかったからだ。

実は、ありとあらゆる場面で日本食を楽しむこともできた。個人経営、もしくはそれに準じるチェーンの居酒屋を簡単に見つけることができるし、味も美味いし安くて最高なのだった。ニトリやスシロー、はま寿司、蔦屋書店、サイゼリヤ、しまいにはスーパー銭湯の極楽湯すらある。政治的には反目しているはずなのに、まるで日本の都市部で生活しているかのような感覚で暮らすことができる。メディアではそのような報道はないが、日本人の8-9割は住んだら好きだと言うのではないだろうか。うーんこの。一次情報最高!
以下心に残った写真

- 大正時代を彷彿とさせるようなレストラン

- これ飲めたら優勝

- 画像ではあまりわからないと思うが、強い奴しかいないジム。緩く生活できるのが上海の良いところだが、弱いやつは入りにくい緊張感がある

- 居酒屋の解像度が高過ぎる

- 上海の風景は基本的に灰色を中心としているため、外部から見ると何が良いのか全くわからない

- 5kgで600円ちょっとの米。マジで安い。豊か
ここに上海国を宣言する
通常、数週間経過すると飽きるのだが、常に新しいものが生えてくる。上海人は無愛想だがとても優しい。中国語が喋れないからコミュニケーションを取るのは困難なのだが、親身になって聞こうとしてくれる。それはまるでどこか地方にいるかのような居心地なのだ。ステレオタイプからは想像もできない桃源郷がここにはある。
ここは中国ではない。中国の皮を被った上海国なのだ。